。ことごとく変幻自在意外極まる応接に、俄探偵二の句もでないていたらくであつた。
 小娘乍ら流石に不良少女だけのことはあつて、きかれもしない他人のスキャンダルはぺらぺらと喋べりまくるが、こつちの訊ねる急所となると、金輪際口を開かぬ。
 三宅君、不良少女の訊問を酒の肴に、気持よく一杯のんで、人生二十何年かの悪運つづきの鬱憤を一気に晴らす魂胆でゐたのであつたが、肴になりかねないのは、こつちの方で、翌日のこと、正装した二人の不良少女が手みやげの最中《もなか》かなんかぶらさげて、まだ戻らはらしまへんか、どんなことどすな、なんぞと敵情偵察かたがたお悔みにやつて来られた時には、俄探偵面目玉を踏みつぶして、遂に悲鳴をあげたのであつた。
 どこそこでおききやしたら、など二人の不良少女殊勝げに嘘八百の忠言までまくしたてて颯爽と帰つたあとには、二人の探偵腕を組んで顔見合せ、お互に三町離れて眺めたやうに小さく縮んで見える姿に悲嘆にくれ、酒だ酒だと、その晩はまんまと不良少女の肴になり終つて、やけ酒に酔ひつぶれた次第であつた。
 俄探偵の口ほどもない無能ぶりに呆れ果てたのが食堂の親爺夫婦で、こつちが鴨になる有様だ
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