口説かれては、わやや」と大義名分の通つた煩悶、即ちおかみさんが一緒についてくることになつた。駟《し》も舌に及ばず、三宅君地団駄ふんだが、後の祭で、及ばない。
かくして怪しげな三人連れがそれからの三日間、不良少女をあれからこれへと戸別訪問したのだが、皆目手掛りがない。
甲は乙さんなら知つてる筈だといふ。乙は丙さんならと言ひ、丙はまたあら乙さんひどいわ自分知つてやはるくせにと言ふ。堂々めぐりである。よくも斯《こ》うまで自分ひとり好い子になれると呆れ返つて文句もないほど、他人のスキャンダルは洗ひざらひ喋べつてきかせる。中学生とどうして大学生とどうした等々。自分だけ聖女のやうな顔してゐる。どこへ行つても、さうなのだ。こつちはメニサンクスだの復讐せんならんを読んできてゐるのだから、大いに可笑しくて仕方がないが、先生達まことに悠々たるものである。
小娘相手に立腹するのも大人げないが、皮肉のひとつも言ひたくなるので、手紙で見た男の名前やあひびきの場所をすつぱぬいて冷やかしてみると、あら、うち、よう言はんわ、など洒蛙々々《しゃあしゃあ》たるもの、他人の話のやうに小気味良く笑ひだしたりするのである
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