おまへんか」と翌朝親爺が現れた時、小生徹夜つづきの尚も法悦極まりない最中だから「まてまて、今に見つける」などと血走つた眼をして勿体ぶれば、親爺はへえーと敬々《うやうや》しく引退るといふ上乗の首尾である。かくして、名探偵の活躍がはじまることになつた。

       (二)[#「(二)」は縦中横]

 シャーロック・ホームズに於けるワトスンの如く、私立探偵は助手が入用ときまつてゐる。翌朝早速京宝撮影所へ電話をかけ、三宅君にサボつてもらふことにした。直に駈つけた三宅君、不良少女の手紙の山を読みはじめると、ウームと痛烈な呻きを発して喰ひつくやうに手紙を握り、あとは小生の言葉も耳にはいらぬ有様である。
「こりや、いいな。早速片つぱしから、不良少女を訪問しませうや。男の子譲つてくれてメニサンクスなんてのは、こりや、どうせシャンぢやないな。かういふ奴は後まはしにして、このスケートは相当のシャンだね。まづ最初にこの子のところへまはつて――」
 と、勇み立つこと限りもない。これは大変な助手を頼んでしまつたと小生甚だ怖れをなしたが、小生以上に慌てたのが食堂の親爺夫婦で「うちの娘探すついでに、よその嬢さん
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