関さんだとか、元巡査山口さん、祇園乙部|見番《けんばん》のおつさん杉本さん等々、額を集めて町内会議がひらかれる。この元巡査がアルコール中毒で、頼りにならないこと夥しく、会議は専ら猥談の方へ進行するばかり、とても埒があかないのである。然らば先生に頼めといふので、親爺の奴山のやうな捜査資料を僕のところへ担ぎこんだ。流石大磐石の先生も目を廻しさうな、大変な手紙の山だ。
渋々手紙の山を受取つて、さて、読んでみると、驚いた。手紙は大方不良少女同士の文通だが、昨日スケート場で中学の三年生の可愛い子をひつかけたから見せてあげるとか、予科のこども譲つてくれてメニサンクス。貴女に紹介された大学生、つきあつてみると、せんど厭らしい奴やないの。あたしの少年奪つた何子さんに、うち復讐せんならん、等々々。
不良少女なんぞいふてあい[#「てあい」に傍点]を最も月並に考へて、老若二人のもぐりの騎士を常々ひやかすことにのみ専念してゐた小生も、俄に彼女等の非凡きはまる天才に驚き、「吹雪物語」もうつちやらかして、悦に入つて手紙の山を読みほぐし、遂に夜の白むのも忘れてしまふといふていたらくであつた。
「先生、てがかり、
前へ
次へ
全10ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング