となのか、私は女を女房という鬼にしたくないのである。
2
貞操というものは一人の男に対して保たるべきものではない。貞操はそういう義務的なものではないのである。
処女の場合がそうで、一人の男への義務というようなものではなく、絶対的なもので、それだけにまた、一たび処女を失うとすべてを失う、あらゆる知性も純潔も一しょに失うようなことになる。
それは貞操に対する常識上の通念がまちがっているからで、処女だけが娘の誇りで、それがなければ娘はゼロだ、傷物だというようなバカバカしい妄想的道徳を平然横行流行せしめている罪だ。
貞操は一人の男のためではないので、自分のためのものだ。自分の純潔のためのものだ。より良くより高い生活のためなら、二夫にでも三夫五夫にでも見《まみ》えてよろしく、それによってむしろ魂の純潔は高められるであろう。愛する男にすら許さぬという処女の純潔も、より高い生き方のために何人もの男に許すという純潔も、純潔に変りはない。貞操は処女を失うとか二人に許すという問題でなく、わが魂の問題だ。
女房の貞操にはもう魂がなく、亭主への義務だけだから、義務などはたよりない代
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