貞操の幅と限界
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)見《まみ》えて
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 私はむかし十七の娘と友達になって、一緒にお酒をのんだり(娘はお酒が強かった)方々ホテルを泊り歩いたりしたが、そしてそれを言いだすのは多くは娘の方からであったが、私たちは肉体の交渉はなかったので、娘はいつもそれを激しく拒んだ。
 これは然し遊びと貞操との限界という観念からではなかったので、娘は男女のそんな行為について全然知識がなかったのであり、愛情の肉体的な表現とはただ抱きすがり抱きしめ接プンするだけのものだとしか知らなかったせいである。
 私は又、むかし浅草で軽演劇の俳優をヒイキにしてご馳走したり着物を買ってやったりしていたお金持の娘のことを知っていたが、俳優の方から口説いてみても、それだけは応じなかった。この娘は後に誰かと結婚して、結婚後は淫奔であり、後にはその俳優とも関係があったようだ。
 ご婦人がたは娘のころは肉体の快楽について極めて幼稚な空想家にすぎないようだが、一たび現実に快楽を知ると、根柢的な現実家になる。快楽に限らず万事につけてその傾向で
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