いから、ウン却々《なかなか》よく書けたなどと言ったが、彼はこれを町の旬刊新聞へのせた。
「あの子もバカバカしいことを言ったり書いたり困ったものです」
 とオカミサンは私に恨みを云った。私が彼をおだてゝ、こんな風にしたと思っている様子であった。オカミサンの身になれば、変テツもない利根川べりの畑を国立公園の美観だと思いこんでいる倅の熱狂ぶりをみるのは苦痛に相違ないが、なんだい、川と畑があるだけじゃないか、などゝ無慙なことを云って青年の祈りを傷《きずつ》けるワケに行かない。私の立場というものも苦痛なのである。この青年は戦死したそうであるが、生きていれば、代議士ぐらいになって、取手町国立公園論をぶったかも知れない。それぐらいの熱狂ぶりであったし、その奇妙な熱狂を取り去れば、非常にカンのよい商売上手な子供であった。
 下村千秋、上泉秀信、本屋のオヤジ一行は時々釣りに来たが、私は二度だけ、小一時間ぐらい見物に行ったゞけである。一行がくるという前の晩に、倅が近所の百姓ジイサンをつかまえて、どこが今、釣れるかね、などときくのである。
「古利根がよかっぺ」
 とか、どこぞこは、もう、ダメだっぺ、というよ
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