たが、旅館へ縁づいて、そこで色々と泊り客の男女関係を見学して、悟りをひらいていたのである。この旅館は主として阪東三十三ヶ所お大師詣での団体を扱うのであるが、この団体は六十ぐらいの婆サンが主で、導師につれられて、旅館で酒宴をひらいてランチキ騒ぎをやるのである。私が、この町を去って後、この団体のランチキ騒ぎの最中に、二階がぬけて墜落し、何人かの即死者がでたような出来事があった。ずいぶん頑堅らしい田舎づくりの建物であったが、よくまア二階がぬけ落ちたものだ、と私は不思議な思いであった。建物によることでもあるが、あの団体のドンチャン騒ぎというものは、中学生の団体旅行などの比ではない。本当のバカ騒ぎでありアゲクが色々なことゝなる。伊勢甚のオカミサンが六十の婆サンを警戒したのは、営業上の悟りからきたところで、私の品性を疑ったワケではなかったらしい。けれども、いきなりこう言われると、人間はひがむものである。
翌日オカミサンは、さる病院を世話してくれた。ここは当主が死んで、もう病院も休業して久しい大建築物であった。
「未亡人と、年ごろの美しいお嬢さんもいますよ」
と言った。つまり、悟りをひらいている
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