「なア、カンスケ君。選挙は特に人目をひくものだ。それに監視がある。選挙違反という監視だ。その監視の目は選挙違反だけしか見えないわけじゃないぜ。わざわざ監視のきびしい選挙を利用する犯罪者がいると思うか。しかし、まア、貴公が大志をかためた以上は、これも勉強だ。やってみろ」
お情けに車をかしてくれた。何かが起ってくれないと同僚に合わせる顔がない。
三高のトラックは赤線区域へはいって行った。パンパン街の十字路で演説をぶちはじめたのである。「シメタ!」寒吉の胸は躍った。
パンパン相手に演説ぶつとはおよそムダな骨折じゃないか。だいたいパンパンというものは移動がはげしいし、転出証明もない者が多く、たいがい選挙権を持たない連中だ。選挙権があったにしても、わざわざ投票にくる筈はないじゃないか。もし投票にくるとすれば、だいたい顔役のいる土地だから、票の行方は一括してきまっていると見なければならない。その顔役にツナガリのない者がここで演説したってムダなことだ。いかに選挙に素人でも、それぐらいのことは分るはずだ。
「なぜ、ここで演説をぶつか」
その理由がなければならぬ。寒吉は車を隠して近寄り、様子をう
前へ
次へ
全29ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング