ジャンのように、脱獄者かも知れません。そして、たぶん、そのときの相棒が江村という人相のわるい男なのでしょう」
「なんのために、叫ぶのさ」
「ボクにその説明を求めるのは、新聞記者のやり方ではないね。しかし、たぶんヤケでしょう。一度は自殺しようと思った時があったに相違ないです。しかし、選挙に立つことを思いたったところを見ると、ヤケを起したのでしょうかね。オレの顔を知ってる奴は出てきやがれ、というヤケかも知れないね。そのころから、ヤケ酒を飲みはじめたらしいから、あるいは、そうではないかと思いますよ。そしてせっかく粒々辛苦の財産をジャンジャン選挙に使いはじめたのですね。江村にせびられて身代をつぶすぐらいなら、公衆に顔をさらして、勝手に身代をつぶしてみせらア、ざまアみろ、というヤケでしょうかね。なんとなく、その気持、分りやしませんか。しかし、むろん本当の心は、自分の前身も知られたくないし、身代もつぶしたくないにきまっています。ですから、この顔をよーくごらん下さい。とヤケの演説をしながらも、酔えば、ああ無情、話してくれるな、と泣くのです。そのアゲク三高氏が江村を殺したにしても、ねえ、アナタ。ちょッ
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