と、金一封はもらいたくないと思いませんか」巨勢博士は笑いながらメモの上から手を放した。その顔は、しかし、次第にマジメになった。寒吉はその顔に答えるように、うなずいた。そしてメモをとりあげてポケットへおさめた。
 数日後、三高吉太郎氏は寒吉につきそわれて自首した。しかるのち、寒吉の特ダネとなり金一封となったことを附け加えておこう。
 巨勢博士の推理は殆ど完全であった。三高氏と江村は、終戦のドサクサに北海道の牢屋を脱獄した徒刑人であったのである。



底本:「坂口安吾全集 14」筑摩書房
   1999(平成11)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第七巻第八号」
   1953(昭和28)年6月1日発行
初出:「小説新潮 第七巻第八号」
   1953(昭和28)年6月1日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2009年7月16日作成
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