ね、その人のおかげで」
「そんなにイヤな奴でしたかね」
「私のカンなのよ。でも、ウチの者は、従業員たちも、みんな江村さんを嫌ってたわ。主人をそそのかして立候補させたのも江村さんだろうッて」
「だって、選挙の参謀でも事務長でもなかったのでしょう」
「それは悪い人は表へ出たがらないもの上。結局お金をチョロまかして逃げちゃったわ」
「だって、たった十万でしょう」
「大金じゃありませんか」
「選挙費用のうちじゃ目クサレ金ですよ。お宅だって、百万や二百万は使ったでしょう」
 さすが違反を怖れてか返事をしないのは上出来であった。
「別に貸した物が欲しいわけじゃありませんが、一度御主人にお目にかからせて頂くかな」
「そうなさいな。人のしたことでも、カカリアイのあることならキチンとしてくれる人ですよ」
 わざと三四日の間をおいて、寒吉は夕食後和服姿にくつろいで三高を訪問した。
 三高は彼を見るなり、「江村があなたから何か借りッ放しだそうですが」
「イエ、それはもういいんです。それどころか、あなたこそ大変な被害をなさったそうですね」
「イヤ。これも選挙費用のうちですよ。そう思えば、問題はありません。もう
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