大将だろう」
「大将じゃないよ」
「四十がらみの職人なんて居るかい。ずッと若いのばかりだ」
「選挙のときに居たじゃないか」
「選挙のときは休業よ」
「選挙の仕事をしていたぜ」
「選挙の時にはいろんなのが手伝いにくらアな」
「花見の演説のときサクラの男がいたろう」
「知らねえよ、そんなの。選挙の話なんぞはクソ面白くもねえ。よしてくれ」
 腹をたててしまった。わざと隠しているような様子もないが、総じて選挙の話をしたがらないようだ。しかし、それは、選挙の結果が人ぎきのわるい得票数に終ったせいのようだ。選挙の話がでると軽蔑されてるようなヒガミが起るらしい風でもあった。
 この上はポチャ/\夫人からききだす一手であるが、選挙が終ってみると、面会を申しこむのも手掛りがない感じで、そのためにシキイをまたぐ勇気がでない。休みの日に半日往来で待ち伏せして、買い物にでたところをようやく捉えることができた。
「選挙のとき、三高さんの運動員の一人に貸してあげた物があるんだけど、その人、居ませんかね」
「運動員なら全部居る筈ですわ。従業員ですから」
「ところが居ませんよ」
「そんな筈ないわ。やめた人ないもの」

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