となった。
 そのとき起ったのが小学校の縁の下から発見された首ナシ死体事件である。その小学校は三高木工所の裏隣りであった。死体の主は誰だか分らなかった。

          ★

 寒吉はこの事件の発生とともに変テコな胸騒ぎがして仕様がなかった。どういうワケだか、これと三高に関係があるような気がするのである。三高木工所は仕事を再開したが、気をつけてみると、例の人相のわるいサクラの姿はどこにも見えない。死体はそろそろフランしていたが、死後二週間ぐらいだろうという。ちょうど花見のころに殺された死体なのだ。そう云えば、寒吉は花見以来サクラの姿を見たことがない。もっとも、あれ以来、三高のトラックがでかけたあとでちょッと留守宅を訪ねるだけのことだから、運動員を見かけることが少かったせいもあった。
 しかし、あのサクラ男が行方不明なら、誰かが騒ぎだしそうなものだが、それもないのである。寒吉は何気ない様子で三高木工所へ立寄り、働いている若い男にきいた。
「選挙で従業員がへったじゃないか」
「へりやしないよ。元のままだ」
「四十がらみの人相のわるいのが居ないじゃないか」
「四十がらみ? それはここの
前へ 次へ
全29ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング