上は。
 しかし、その後はパッとしたことがない。
「やっばりケンカは変なことのうちだな。パンパン街の演説だってタダモノのやれる芸当じゃねえや。してみれば、みんな変じゃないか。よーし。毎朝奥方を訪問しよう。ポチャポチャッと可愛いとこがあらア。毎朝の訪問にしちゃ気がきいてるなア、これは」
 変なところにハゲミをつけて、出勤の途中に毎朝ポチャ/\夫人訪問を忘れないことにした。パチンコでせしめたキャラメルなぞを手ミヤゲにしながら。
 そんな次第でポチャ/\夫人とはかなり打ちとけた話をする仲になったが、立候補の秘密の方はそれに比例して影が薄れるばかりである。なぜなら、打ちとけるにつれ、夫人は心配そうな様子を見せなくなったからである。
「主人が代議士になったら、どうしましょう。代議士夫人ねえ」なぞと途方もないことを口走るシマツになったからである。
「よくよくバカだな、この女は」
 と寒吉はタンソクしたが、また、可愛い女だと毎朝の訪問が目当てのちがうタノシミになるというダラシのない有様になった。
 そのうちに選挙が終った。三高吉太郎の得票一三二。百を越したのはアッパレというべきだ。まさに事もなく終幕
前へ 次へ
全29ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング