である。
「そうだ! 奥方の話をきくのが残されている。ウッカリだ。新聞記者の足は天下クマなく話を追わなければならない」そこで奥方をつかまえて暫時の質問の許しを得た。
「昨日は御主人は酔って御帰館でしたな」
「ええ。ふだんは飲まない人ですのに」
「ハハア。ふだんは飲まないのですか」
「選挙の前ごろから時々飲むようになったんですよ。でも、あんなに酔ったことはありません」
「なぜでしょう?」
「分りませんわ。選挙がいけないんじゃないですか。立候補なんてねえ」
「奥さんは立候補反対ですか。よそではそうではないようですが」
「それは当選なさるようなお宅は別ですわ。ウチは大金を使うだけのことですもの、バカバカしいわ。ヤケ酒のみのみ選挙にでるなんて変テコですわよ」
「ヤケ酒ですか、あれは?」
「そうでしょうよ。私だって、ヤケ酒が飲みたくなるわ」
「なぜ立候補したのでしょう?」
「それは私が知りたいのよ」
「なにか仰有ることはあるでしょう。特にヤケ酒に酔ッ払ッたりしたときには」
「絶対に云いませんよ。こうと心をきめたら、おとなしいに似合わず、何が何でもガンコなんですから。なにかワケがあるんでしょうが、
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