ックはまッすぐ自宅へ戻った。酔ッ払ッて選挙演説はぶてないから、この日はこれで終りらしかった。
三高が泣いて連れ去られる時、寒吉はこれが終りと直感したから、彼が泣いて何を喚いているのかとすぐ後までズカズカ近づくと、彼の喚きは実に人々のオヘソをデングリ返してしまうほど悲痛また痛快なものだった。
「ああ無情。ああ……」
彼はダダッ子のように手足をバタバタふりながら、また喚いた。
「放さないでくれ。ああ無情。ああ……」
そしてトラックへ運びこまれたのである。
「ウーム」
寒吉は思わず唸って敗北をさとった。
「ワタクシは何をか云わん」彼がそれからヤケ酒を飲んだのは云うまでもない。
★
翌日、かなりおそく、彼が出勤しようとして通りかかると、今しも三高のトラックが彼をのせ、家族に路上まで送られて出発しようとするところである。奥方とおぼしき婦人は意外に若くて、善良そうな、ちょッと可愛らしい女であった。赤ん坊をオンブしていた。
「トウチャン、シッカリ!」と云って、赤ん坊に手をふらせた。トラックは走り去った。これを見ると、ムラムラと寒吉の心が変った。ミレンが頭をもたげたの
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