た」
このお忍びの酒もりへ、さらにお忍びの誰かが合流するだろうと寒吉は考えた。
ところが、やがて合流したのは、例の人相のわるいサクラだけだ。そして間もなく一同酔っ払ってしまったらしい。仲間同士でケンカをはじめたのだ。
寒吉はわざと離れて、顔を見せないようにして監視していたから、ケンカの原因は分らない。いきなり殴り合いが起っていた。殴り合いの一方はサクラだ。彼の目に見えたところだけでは、殴られた方がサクラであった。殴った方は運動員の一人で、三高ではなかった。寒吉が駈けつけた時には、もう人だかりができていた。殴り合いは終っていた。サクラはホコリを払って立ち去るところであった。また、けたたましく笑いながら。
一人が仲間にだかれて泣いている。泣いているのは三高であった。三高は両側から抱くようにして選挙のトラックへ連れ去られた。その泣き男が演説をぶッた候補者だということに気のつく者もいないらしい。ケンカもここが一ツじゃないし、泣き男も彼だけではなかったろう。色とりどりの酔ッ払いがここを晴れと入り乱れているのだ。
三高の一行はトラックで去った。サクラはそこには現れなかった。
三高のトラ
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