り真杉静枝を論じたり、やらしておくと、実に何をやりだすか途方もないデタラメなことをやる。これが又彼のいゝ所だと僕は思ふ。今に文学の真髄を会得した時に、このデタラメさが独自な形をとつて生き返つてくるだらうと思つてゐるからだ。彼は生れついての独断家のくせに、わざ/\糞勉強して埒もない本を読み公式的な評論の仕方を真似たりする。芸術は独断だと僕は思ふ。公式的な批評は甚だスマートでちよつと乙に見えるけれども、実は中味が何もなく、文学に公平だの公正なる批評などゝいふものが在るべき筈のものではないのだ。大井君は独断といふ天与の才を持ちながら苦労して下らぬ公式を勉強する。最もつまらぬことではないか。
大井広介には「ユーウツ」だの「センチ」などゝいふものゝ翳が微塵もない。時々何かに立腹して実に憂鬱ですなどゝ言つてゐるが、いはゆる人性の憂鬱とか虚無とか感傷とか、さういふものに全然縁のないのが大井君である。いつたい文学をやつてをつて憂鬱とか感傷とかと全然無縁だといふこんなべラボーな男が今迄存在したであらうか。今、現に存在する。実際彼の不可思議な性格が文学の上に結晶したら痛快なものが出来上る筈に相違ない。生
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