大井広介といふ男
――並びに註文ひとつの事――
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)竹刀《しない》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)バタ/\駆けつけて
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大井広介に始めて会つたのは昭和十五年大晦日午後七時、葉書で打合せて雷門で出会つた。その晩、大井広介は至極大真面目で、自分はインチキ・レビューの愛好家で、女性美はレビューの動きに極致があると信じてゐるから、自分の娘もレビューガールにするつもりである。三つの頃からレビューを見せて仕込んでゐるが、足が長くレビューガール向きの身体のくせに、生れつき踊りの才能がなくて閉口してゐる、とこぼした。酔つ払つてゐたわけではなく、至極マジメなものである。これは又評論書きにも似合はない奇々怪々な先生だと思つて、ひどく好きになつてしまつた。そこで「現代文学」の同人になることを承諾した。
その後、大井君の家へ始めて訪ねたところが、裏長屋に永住して借金とりと口論ばかりして暮してゐる壮士だと思つてゐたのに、堂々たる大邸宅の主人公だつたので呆れてしまつた。と、僕の目の前へ、冬だ
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