と信じてゐた。その時でも、自分の壕ならともかく直撃されない限り持つと思つてをり、手をあげて這ひだして、ヨボ/\の年寄だから助けてやれ、そこまで考へて私達に得意然と吹聴して、金を握つて、壕に金をかけない人間は馬鹿だね、金は紙キレになるよ、紙キレをあつためて、馬鹿げた話さ、さう言つてゐた。だから私はカマキリに言つてやつた。この時の用意のために壕をつくつておいたのでせう。御自慢の壕へ住みなさい。
「荷物がいつぱいつまつてゐるのでね」
と、カマキリは言つた。
「そんなことまで知りませんよ。私達が焼けだされたら、あなたは泊めてくれますか」
「それは泊めてやらないがね」
と、カマキリは苦笑しながら厭味を言つて帰つて行つた。カマキリは全く虫のやうに露骨であつた。焼跡の余燼の中へ訪ねてきて、焼け残つたね、と挨拶したとき、あらはに不満を隠しきれず、残念千万な顔をした。そして、焼け残つたね、とは言つたが、よかつたね、とも、おめでたう、とも言ふ分別すらないのであつた。いくらか彼の胸がをさまるのは、どうせ最後にどの家も焼けて崩れて吹きとばされるにきまつてゐるといふことゝ、焼け残つたために目標になつて機銃に
前へ
次へ
全28ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング