続戦争と一人の女
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)帙《ちつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|米《メートル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)B29[#「29」は縦中横]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)クシャ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 カマキリ親爺は私のことを奥さんと呼んだり姐さんと呼んだりした。デブ親爺は奥さんと呼んだ。だからデブが好きであつた。カマキリが姐さんと私をよぶとき私は気がつかないふうに平気な顔をしてゐたが、今にひどい目にあはしてやると覚悟をきめてゐたのである。
 カマキリもデブも六十ぐらゐであつた。カマキリは町工場の親爺でデブは井戸屋であつた。私達はサイレンの合間々々に集つてバクチをしてゐた。野村とデブが大概勝つて、私とカマキリが大概負けた。カマキリは負けて亢奮してくると、私を姐さんとよんで、厭らしい目付をした。時々よだれが垂れさうな露骨な顔付をした。カマキリは極度に吝嗇であつた。負けた金を払ふとき札をとりだ
次へ
全28ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング