《かんばつ》の畑のやうに乾からびてゐるやうだつた。私はラヂオの警報がB29[#「29」は縦中横]の大編隊三百機だの五百機だのと言ふたびに、なによ、五百機ぽつち。まだ三千機五千機にならないの、口ほどもない、私はぢり/\し、空いつぱいが飛行機の雲でかくれてしまふ大編隊の来襲を夢想して、たのしんでゐた。
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カマキリも焼けた。デブも焼けた。
カマキリは同居させてくれと頼みにきたが、私は邪険に突き放した。彼はかねてこの辺では例の少い金のかゝつた防空壕をつくつてゐた。家財の大半は入れることができ、直撃されぬ限り焼けないだけの仕掛があつた。彼は貧弱な壕しかない私達をひやかして、家具は疎開させたかね、この壕には蓋がないね、焼けても困らない人達は羨しいね、などゝ言つたが、実際は私達の不用意を冷笑してをり、焼けて困つてボンヤリするのを楽しみにしてゐたのだつた。カマキリは悪魔的な敗戦希願者であつたから、B29[#「29」は縦中横]の編隊の数が一万二万にならないことに苛々《いらいら》する一人であつた。東京中が焼け野になることを信じてをり、その焼け野も御叮嚀に重砲の弾であばたになる
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