でくるぐらゐのもので、まして二人の女には徹頭徹尾わけの分らない寝言だつた。
長談義が終りさうな気配になつたところで急に又舌に油がのりはじめ、何度となくさういふことを繰返して一座の人々を散々悩ましてゐたが、突然話にバタ/\と結論をつけてしまふと、まるつきり今迄と違つた顔付をして一息入れた。それから結婚の話とはまるで別な、とんちんかんな世間話を然し甚だ落付いて二言三言交しておいて、それで何一つ思ひ残すことはないといふやうなサバ/\した様子で帰つていつた。勿論弥生の返答は皆目きかずじまひであつた。返答の隙さへなかつたのであつた。それから二ヶ月あまり音沙汰がなかつた。
十日ほどまへ二ヶ月ぶりで訪れたときには、遠い旅をしてきたと言つて、南国のピカピカ光る海の話や鱧《はも》漁の模様などを図解入りで話してゐたが、縁談のことには頭から足の爪まで無関心の様子であつた。その後もさういふ同じ様子で二三度訪れ、ゆふべは晩くまで話しこんだあげく、泊ることになつたのである。その当太郎が寝床の中に見えないのだつた。
――気まぐれに帰つてしまつたのだらうか? それも珍らしいことではない、と草吉は心に思つた。
前へ
次へ
全43ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング