ら逆に廻つてきたのであつた。二人は直ちに新潟へ向つて出発した。
疲れきつた物憂いやうな微笑が、またもやまさ子に戻つてきた。海鳴りのとどろきわたる停車場で、茫然と汽車を待つことが苦しかつた。
汽車の速力の早まるにつれて、まさ子の顔から微笑の翳が消えていつた。顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》に薄く鋭い幾本かの筋が走り、苛立ちと焦慮があらはれ、さうして沈黙をまもりはじめた。草吉の存在を意識したばかりでも、苦痛のやうな動作をあらはす時があつた。汽車の窓に顔をあてて暮れかかる雪原を眺めてゐたが、その目に涙があふれてきた。
――憎まれなければならぬ。さうして、呪はれることが必要だ。すべて温いものの煩しさには悪魔さへ辟易するだらう、と草吉は自分に言つた。遥かな旅愁が流れかかつてくるのであつた。
草吉はとある停車場で地方新聞の夕刊を買ひもとめた。旅人の自殺も、事件のすくない田舎のことで、新聞は二段抜きに報じてゐた。報道の末尾まで読んでくると、悒鬱《ゆううつ》な、宿命的な文字が彼の目を暗くした。生命とりとめる見込、としるされてゐるのだつた。
彼はそれをまさ子に示した。まさ
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