つきり心をうちあけた日も、あんな人たよりないわと、弥生は躊躇なく二人の人に言つた。殆んど関心がもてないやうすであつた。ましてそれからの二ヶ月あまり不意に音沙汰がなくなつてしまふと、当太郎が落していつた幾らでもないしみ[#「しみ」に傍点]は弥生の心から跡形もなく立ち去つてしまひ、久方振りで南の旅から帰つてきても、弥生はなんのこだわりもなく無関心で、全てが過ぎ去つた様子であつた。新らたな変化は当太郎の自殺未遂から起つたのである。さうとしか思はれないのだ。
「へえ、そんなことを一日むつつり考へこんでゐたのかね! この娘《こ》は! 油断ができないね!」
忍はひどく面食つて、素つ頓狂な大声で叫んだ。
「だつて会ひたいんだもの」
弥生は涙をふいて言つた。
「会つてどうするのさ」
「どうするつて、会ふだけでいいのよ」
「首をくくられて、惚れたんかね。あんたも相当ないかものぐひだよ。結婚しませうつて言ふつもりなの?」
「ううん」
弥生は首を横にふつて、暫く俯向いて黙つてゐたが、独語を呟くやうに言つた。
「今迄と違つた気持で会つてみたいのよ。だつて、今迄はあんまりあたしが何も考へてゐなかつたわ。だ
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