から、考へながら会つてみたいのよ」
「あんたも相当にしよつてるよ。あんな自殺は、あんた一人のせゐぢやありませんからね。藪さんの自殺なんて、八幡の藪知らずでリュウマチの貉《むじな》が迷つてゐるやうなもんですよ。しよつちう気まぐれなんだからね。お前さん一人が迷はせてるんと思ふと、大変なまちがひなんですよ」
「それでもいいのよ。会つてみれば分ることぢやないの」
「さういふもんですかね! 勝手にしなさいよ!」
 忍は癇癪を起しかけて立ち上つた。鏡のある方へ歩いていつたが、鏡をみずに、ねころがつた。
「昨日の今日だもの、藪さんだつて疲れたでせうよ。熱くらゐだして、今時分はうん/\唸つてるかもしれないよ」
「病気ならあたし看病に行くわよ……」
 弥生は再び泣きださうとして、顫える笛の音《ね》のやうな細さで言つた。
「お兄さん! 藪さんをつれてきてよ!」
 さう叫んで、弥生は再びけたたましい叫び声を発して泣きだしたのだつた。
「しやうがないね。藪さんちへ行つてきて下さいよ」
 と畳の上へひつくりかへつた忍が言つた。
「うむ。行つてみるか」
 草吉は唸りながら立ち上つた。
 凍てついた夜の中へ歩きだし
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