て死ぬ気になつたんだらうね!」
と、忍は忿怒に眼を輝やかせて、くひつくやうに言つた。口惜しさうな顔付だつた。忍が異常に亢奮してゐることは、部屋の片隅へ縮むやうに坐りこみ、ちやうど腕組みでもしてゐるやうな角張つた形をしながら、ちよつとした身動きも容易でない様子から、それと分るのであつた。さういふ忍自身は、ここ数年のあひだ屡々《しばしば》死にたい気持に襲はれながら、自分の死相には全く気付かないのだつた。
「便所なんて、汚らしいよ! 死んでごらん、ほんとに蛆虫がぶらさがつてゐるんと変りがないよ」
忍はプン/\しながら叫んだ。
「死ぬにも便利だし綺麗な場所は方々にあるよ。全く気がきかないね、自分だつて臭くつて窮屈だらうにね」
「いいよ/\、お姉さんには分らないよ」
弥生が突然泣きほろめいて叫びはじめた。
「お姉さんに死ぬ人の気持が分つてたまるもんか! あたしだつて便所の中で死なうと思つたことが、なんべんもあつたわ!」
さういふと弥生は、ヒステリックな叫喚をあげて泣きだしてしまつた。
「いやだよ、便所の中、便所の中つて。野原のまんなかぢや死ねないもんかね!」
忍はシュミーズの上へ外套を
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