「オレは事情あって事を起すのが好きだな。オレをお前のウチへ案内しろ」
「コレ。五郎。一命を大切に……」
「一命を大切にしてるよ。ただ、事を起すだけだよ。早く、案内しろ。悪侍を退散させてから居候になるつもりだから、毎日うまい物を山盛りくわせるのを忘れるな」
「お前さんは誰だい」
「箱根の天狗だ」
「よーし。気に入った。さア、おいで」
「コラ、待て。五郎。一命を」
「大切にするよ」
女と五郎は走りだす。物見高い連中が後を追って走りだす。仕方がないから十郎は半分歩いて半分走って、一命を大切に――呟きながら足をひきずっている。
長者の門前へ来てみると、今しも親分格の奴がズカズカ上って虎を軽々と押えつけているところだ。門をはいった五郎、悪侍によびかけた。
「オーイ。コラ、コラ。蛸の足」
「なんだと」
一同ふりむいてみると、雲つくような大男がニコニコ笑って立ってるから、
「蛸の足とは、なんだ」
「八人だから、蛸の足だ」
「なるほど」
「オレは当家の居候だ。オレに断りなく上ってはこまるな」
「断って上るが、よいか」
「オレはよいが、オレの手に持つものに、きいてみろ」
「手に何も持たんじゃない
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