か」
「いま、もつぞオ」
肩の弓矢を外して地においた五郎、玄関脇の松の木にムンズと組みついた。
「オ。松の木に相談するのか。面白いな」
「いまにもっと面白くなるから待ってろ。アリャ、リャ、リャ、リャ……」
ゆさぶるうちに大地がメリメリとさけてきた。
「エイッ。ヤッ」
と五郎が満身の力をふりしぼって押しつけると、悪侍の頭上へ松の木が倒れてきたから、おどろいた。
松の葉にさされながら逃げのびて、茫然と仲間の顔を見合っている。
「さ、松の木にきいてみろ。たって上るか、どうだな」
さすがに親分の権太、何食わぬ顔、五郎に近よりざまに太刀をぬいて斬ってかかる。五郎、体をひらいて、トントンと前へ泳いでくる権太の利き腕をたたく。力を入れて打ったようでもないが、腕が折れてなくなったよう。ポロリと刀を落して、目を白黒。五郎はその片腕と襟首をつかんで、
「そうれ。上りたければ上げてやるぞ」
ブン廻しのように振り廻して手を放すと、屋根の上へとんで行った。
「どうだ、上り心持《ごこち》は」
ガラガラドシンと下へ落ち、目をまわして、
「ウーム。酩酊いたした」
と言えなかったという話。
七人の悪侍
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