だなんて、誰一人きてくれやしませんよ。みんな、やられてるんです。地廻りのグレン隊じゃ歯が立たないんですよ。私、どうしようかと思ってね。ほんとに天の助けだわ。十郎さんに急場を救っていただいてお嬢さんの胸のつかえを取り去ってあげさせようという天の配剤、それでたぶん天がお嬢さんにタンカをきらせたんですよ。早く、なんとかしてあげて下さい」
「拙者は事情あって一命を大切にいたさなければならない身、かりそめにも暴漢ごときと事を起すわけにはまいらぬ」
「何が、拙者だ。オタンコナス。二世を誓った愛人が悪漢相手に苦しんでるというのに、事情あって、一命。ヘン。愛より深い事情があるか。唐変木」
「よく口のまわる女だ。しかし、心配なことではあるな」
「当り前じゃないか。やい、男なら、何とかしろ。さもないと、私がタダじゃアおかないよ。女と思って見くびるな。向う脛をかッ払うぞ」
「まて、まて。その方と事を起すのは好まぬ。事情あって、拙者は一命を大切に……」
「オタンコナスめ」
白拍子が打ってかかろうとすると、軽くその肩を押えた五郎。
「ム。痛い。ウーム、この野郎、なんてい馬鹿力だ。よせやい。動けねえや。痛いよ」
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