ているのである。
「空腹の御様子。食事の邪魔も礼なき業であるから、本日はお別れ致そう。後日の挨拶をお待ち致しておるぞ」
と平六は胸をはり刀にソリをうたせて、馬上ユラユラ立ち去った。十郎は五郎の手の中からトビを奪って地上に叩きつけて、
「仇討までは大切な命。つまらぬ事を起してはならぬと云うのに」
「分った。よく、分ったよ。しかし、こまったね。居候の当がなくなったね。平六の女房も三浦の叔母もずいぶんうまい物をタラフク食べさせてくれたが、目にチラついてこまる」
十郎の目にチラつくのは女の顔、五郎の目にチラつくのは山盛のゴチソーだ。
「大磯に当があるから、心配するな」
「うまいゴチソーがあるかね」
「大丈夫だ。料理屋だから」
「それは心強いな。しかし、兄貴は意外なところに味方があるんだね」
「そこの一人娘がオレの恋人だ」
「またか」
五郎はガッカリした。
五郎はゴロツキ兄は女に精だすこと
大磯は当時このあたりで最も繁華な遊び場であった。大昔からの遊び場だ。
遠い昔、西を追われたらしい高麗《こま》の豪族の一族郎党大人数が、舟で逃げてきて、ここに上陸した。今でもここに高麗神
前へ
次へ
全20ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング