本当の批判精神は彼らにはない。なぜなら、まことに誠実なる自我、即ち人間への省察がないからなのである。

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 漢字制限の方は、もう近ごろでは新聞雑誌社でもその不備に気がついて、色々自我流の細工を施して読み易くする適当な効果をだしてゐるやうだ。二字のうち一字が漢字で一字がカナであつたり、三字の上と下がカナで真ン中だけが漢字であつたり、ひどく読みにくゝて話にならない。これは決して馴れの問題ではなく、日本語を構成してゐる基本の原則に関することだから、単に漢字を制限したゞけで、どうなる性質のものではないのである。
 むしろヒラガナとカタカナを混用させ、なるべく難しい文字の名詞はカタカナで書け、そんな風な法則について工夫をめぐらした方がよろしいと思つた。
 私らのやうに文士たちは、なんとかして、自分の作品が誤読されないやう、又、読みやすいやうにと色々と考へる。そこで、私はなるべく難しい漢字は使はぬ方法をめぐらし、できるだけカナで書くやうにつとめるけれども、ヒラガナが十五も二十もつゞくと読みにくいものだから、適当に漢字を入れて読み易くする、そこで私は「出来る」とか「筈」とい
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