ルギーは、ついに空想をハミダシ、空想の限界を超えてしまったのである。
 筑紫なる梅のオトドが雷となって落ちたところで、せいぜい千ポンドバクダンぐらいのことだろう。筑紫一国、山の狸も、池のミミズに至るまで、ピカドンという一瞬に焼けてなくなるなどゝは、誰一人、夢想することも出来なかった。
 空想の限界を超えるに至っては、これはもはや人間のものではなく、まさしく悪魔の兇器である。それのもたらす被害は、当然利益よりも甚大であり、今日まで戦争がもたらした効能も、この悪魔のバクダン以後は、ついに被害を上廻ることは出来ないであろう。
 もとより、私の如上の計算は、科学的方法によって為されたものではない。然し、空想の限界を超す悪魔的エネルギーのもたらす被害と利益とその差如何、という如き、天文学的数字を一年間ひいたり、たしたり、したところで、出てくるものではなかろう。
 兵器の魔力が空想の限界を超すに至って、ついに戦争も、その限界に達したと見なければならない。
 兵器の魔力、こゝに至る。もはや、戦争をやってはならぬ。断々乎として、否、絶対に、もはや、戦争はやるべきではない。
 今まで戦争が我々にもたらし
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