いう催眠薬は、これを多量に連用した後の半覚醒時に、甚しく兇暴になるのである。アドルム中毒患者は、日本の学界にはまだ報告されておらず、僕が第一号であったと千谷さんの話であったが、僕が入院して一ヶ月半ほど後に、第二号が現れた。これは二十八の婦人で、おまけに、僕の倍量、百錠ずつ連用したというのだから、ムチャである。この患者も、甚しく兇暴性を現したということであった。
僕自身の場合から推して、アドルムという催眠薬は、用法に良く注意しなければならない。定量の一錠、せいぜい二錠を限度にして、それ以上は決して用いない方がよろしい。
アドルムは、何か地底へひきこむように睡眠へひきこむが、僕の場合は、一時間、長くて、一時間半で目が覚めた。又、服用する。又一時間で目覚める。又、服用する。こうして、次第に中毒してしまったのだが、何分、僕は、ムリに仕事をするために覚醒剤を多量に用いざるを得なかった。それだけ、又、ねむるためには多量の催眠薬を用いざるを得なかったことゝなり、要するに、生活が不自然でありすぎたのである。アドルム中毒は甚しい幻聴を伴い、歩行が不可能となり、極めて、不快であり、苦痛なものであるから
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