ぎていることが、どうしても信じられないものである。この傾向は、治療としての持続睡眠にのみ有るものではなく、催眠薬の中毒病状がすべてそうで、入院直前、僕がアドルムを多量に用いて(四五十錠ずつ二十四五日間用いた)昏睡をもとめた時にも、ふと覚醒して、一夜ちょッと眠った自覚しかないのに、一週間がすぎており、どうしても信じられないことが三度ほどあった。
 持続睡眠療法も、アドルム中毒の場合もそうであるが、半覚醒時に、甚しくエロになった。全ての患者が、そうか、どうか、僕は知らない。然し、概してそうなるのが自然だろうと思われるのは、何人も性慾については抑圧しつゝあるものであり、又、催眠薬が、これらの抑圧を解放するというよりも、性慾の神経に何らかの刺戟を及ぼすものだと思われる。フロイド的な抑圧の解放を意味するものではなく、薬物に、それらの悪作用が附随しているだけのことで、なければ、ない方がよろしいであろう。この悪作用を伴わない催眠薬が発明出来れば、大変よろしいように僕は思った。
 東大で持続睡眠に用いるズルフォナールという催眠薬は半覚醒時にエロチックになるけれども粗暴にはならない。ところが、アドルムと
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