精神病覚え書
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三昧境《さんまいきょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](退院の翌日)
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一ヶ月余の睡眠治療が終って、どうやら食慾も出、歩行もいくらか可能になったころ、まだ戸外の散歩はムリであるから、医者のフリをして、ちょッと外来を見せて貰った。幸い僕の担当が外来長の千谷さんであったから、有無を言わさず、僕が勝手に乗りこんだようなものであった。
ほかの精神病院のことは知らないが、東大に関する限り、ここが精神病院の何より良いところである。お医者さん、看護婦、附添い、すべて患者の神経を苛立たせないように、これつとめ、これを専一に注意を払ってくれる。神経科以外の病棟は決してこう行き届く筈はないだろうと思った。だから僕は、ほかの病気で入院する時でも、神経科へ入院して、その専門の病室へ通うのが何よりだと思ったほどである。
僕が外来で新患の診察を見たとき、患者は二十人ぐらいであった。そのうち、七八人は学童であったが、これはちょうど、時期が休暇に当っていたせいだという話であ
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