った。学童の親たちは、言い合したように「ヒキツケ」という言葉を用い、テンカンという言葉を用いた者は完全に一人もいなかった。
このヒキツケの学童たちは、いずれも智能劣等であった。ドストエフスキーの片鱗などは影もなく、殆ど大部分が智能劣等なのが普通だということであった。
千谷さんや、若いお医者さんの話では、パウロがテンカンではないかということであり、バイブルに現れるパウロの表現に、テンカンの要素が見られるということであったが、マホメットがテンカンらしいということは普通言われていることであり、狂信的世界はたしかに幻想の実在的確信を伴い、宗教家にテンカン患者がかなりいるのではないかと思われる節はある。
僕が退院する二日前、小林秀雄が見舞いに来てくれて、ゴッホは分裂病ではなく、テンカンじゃないのかと言いだした。
一般に精神病のお医者さん方がゴッホを分裂病だと云うのは、ヤスパースなどを読んで、その通り思いこんでおられるだけで、小林秀雄のようにゴッホに関する殆どあらゆる文献を読んでいるわけではない。
小林秀雄は十何年かの間ドストエフスキーについて殆どあらゆる文献をしらべ、今は又ゴッホ研究を
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