、こういうことにならないように注意すべきだと思う。そんなことを云いながら、私は二ヶ月のうちに某雑誌社と手を切るために、五十六万円の借金を支払うため、書いて書きまくる必要にせまられており、どうも、二三ヶ月後に、又、精神病院へ逆戻りせざるを得ないのではないかという不安にも襲われている。僕は然し、それを克服するだけの意志力を持たなければならないということを信じており、必ず闘い勝つ、勝たねばならぬ、とも信じているのである。多分、僕は、勝つだろう。

 話がワキ道へそれてしまったが、僕が東大へ入院し、僕のうける療法が、持続睡眠と云って一ヶ月昏睡させるものだ、ときいた時に、僕が思いだしたのは、フロイドであった。つまり、昏睡させておいて、医者が暗示を与え、抑圧された意識を解放しよう、とするのではないかと疑ったのである。
 それは、ダメだ、ダメです、僕は幻聴だらけの眠れない夜、心に叫びつづけていた。僕は、精神の最も衰弱し、最も不安定の時期である故に、フロイドの方法が、療法として実は不可能だということを悟ったのである。
 つまり、最も精神の衰弱し不安定となっている僕は、何の暗示をうける必要もなく、あらゆ
前へ 次へ
全20ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング