失うのである)歩行も不可能であり、第一、喋ることもできない。幻聴と絶望に苦しむばかりで、ともすれば、発作的に自殺するか、人を殺すか、まことに際どい神経の極度の不安定の状態である。この状態では、特に親密な人々によっては、ともかく慰められ、力づけられ、反対に、面識なく、好意を持たない人間に対しては、面会は不可能であり、会えば、何をやるか分らず、病状を悪化させるばかりである。医者がきびしく新聞記者の面会を拒否したのは当然であり、そのことについて認識のない新聞記者の教養は奇怪と云う以外に言葉がない。
僕はこういう新聞記者の在り方、又、新聞の在り方の方が、常規を逸し、精神病的ではないが、犯罪的なのだ、と判断せざるを得ない。つまり、小平的なのである。そして、アゲクは、戦争的なのである。精神病者というものは、こんなに無礼であったり、動物的であったりはしないものなのである。そして、先程も云う通り、自らの動物性と最も闘い、あるいは闘い破れた者が精神病者であるかも知れないが、自らに課する戒律と他人に対する尊敬を持つものが、精神病者の一特質であることは忘るべきではない。
昨年、帝銀容疑者の平沢氏が東京へ
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