連行された時、新聞は、容疑者にすぎないものを、発表したのは不徳義である、と云って、当局を責めた。然し、もし、警視庁がこれを極秘裡に行い、ひそかに平沢氏を小樽から東京へ連行した場合、これを新聞記者が探知したならば、特ダネとして、全紙面をうめるぐらいに書き立てた筈である。現に、平沢氏の前に、水戸の某氏がひそかに取り調べをうけているとき、これを書き立てたのは新聞であり、当局は秘密にしていたのである。
発表すれば、不徳義也と云い、しかも自らは、ひそかにスクープして発表し、それを得々としている。自ら背徳を行いつゝ、それを他人にのみ責めて、内省することを知らない。精神病者には、こういう内省のなさ、他人への無礼に対して自ら責めることを忘れている者は居ない。だから、もし、精神病患者が異常なものであるとすれば、精神病院の外の世界というものは奇怪なものであり、精神病的ではないが、犯罪的なものなのである。
精神病者は自らの動物と闘い破れた敗残者であるかも知れないが、一般人は、自らの動物と闘い争うことを忘れ、恬《てん》として内省なく、動物の上に安住している人々である。
小林秀雄も言っていたが、ゴッホの方
前へ
次へ
全20ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング