教祖は別として、その信徒は何者なのだろう。何者でもなく、人間なのだろうか。いったい、精神病者とは、何者であるか。
僕のいた東大神経科は、重症者を置かない。置く設備がないからである。廊下の出入口の一ヶ所に鍵がかかるだけで、個々の病室には鍵がかかっていない。窓に鉄の格子がはまって、脱出は不可能であるが、窓は普通の洋室の位置にあり、兇暴な患者は他の室へ乱入することもできるし、窓ガラスを割ることもできる。
僕のいた部屋は、A級戦犯のO氏が発病直後送られた部屋で、発病直後は兇暴でこのガラス部屋は不向きであったから、松沢へ送られたそうである。東大の外来室では、千谷さんの見わけによって、重症であり、兇暴であると判断せられたものは、松沢へ送られる習慣であり、従って、僕の病棟では、脳梅毒患者をのぞいて、ひどい患者はいなかった。
分裂病は二十歳前後に発病し、周期的にくりかえして根治することが先ずないので、入院患者も、三度目の入院とか六度目とかという古強者《ふるつわもの》が多い。然し、分裂病は智能を犯されることがないから、仕事に従事して才能ある限り、単に変り者と世間に目せられているだけで、終生精神病
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