部的なことだけしか語らないが、僕の応接間では、彼らは自らの意志によって来ており、主として内部的なことを語ろうと努力していることの相違である。
だから彼らは徳義上の内省については普通人よりも考えあぐね、発作の時期でなければ、むしろ行い正しく、慎しんでいるのが普通であり、精神病院の看護婦などが、患者に親切で、その仕事に愛着をもつようになるのも、患者らの本性の正直さや慎ましさが自然にそうさせるのではないかと思った。
一般に、犯罪者と精神鑑定とは離るべからざるように見られているが、テンカンの場合とか、異状発作の場合とかはとにかくとして、たとえば小平の場合などは、これを精神異状と云うのは奇妙であり、明らかに、「犯罪者」という別の定義があるべきではないかと思った。一般に、精神病の患者は、自らに科するに酷であり、むしろ過度に抑圧的であって、小平のような平凡さ、動物的な当然さはないものである。精神病者が最も多く闘っているものは、むしろ自らの動物性に対してであり、僕が小平を精神異状ではなく、むしろ平凡であり、単に犯罪者であると定義する所以はこゝにあるのである。精神病院の患者は自らに科するに酷であり、
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