五分ひく三分、十二分の間、彼女は何をしていたのであろうか』
 これを読んだ文作は新聞を握りしめ殴り込みの勢いで社会部のデスクに突めよった。
「ハンドバッグを胸にだいてボンヤリ立ち止っていたと云ったんだ。中をあけて思いつめてのぞいてたなんて云いやしないよ」
「素人は黙ってろ」
「よせやい。オレだって昔は三年も社会部のメシを食ってるんだ。十五ひく三の十二分で神田先生が殺せるかてんだ。正午カッキリまで先生が生きてたことはオレが証明できるんだ」
「その十二分間に彼女が殺したとは誰も云ってやしないよ。彼女は何をしていたかてんだ――どうだい」
「十二分ぐらいは何をしても過ぎちまわア」
「坂の下にパチンコ屋も喫茶店もなくてもかい。畑だけしかないところで、十二分間も何をして過す」
「よーし。オレがいまに彼女の無罪を証明するから、待ってやがれ。ついでに犯人も突きとめてみせるから」
 彼はムカッ腹をたてて外へとびだした。まず冷静第一と各社の記事を読みくらべてみると、各社とも久子に不利な見解らしく、自殺とすれば久子が電話に立った間。他殺なら犯人は久子。なぜなら、隣室のピストルの音がきこえなかったということは
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