すから」
 彼は二十七歳。終戦の時は学徒兵だった美青年である。彼は新聞記者に男色方面の突ッこんだ質問をうけたが、それを平然とうけながして、
「僕は先生の弟子で、書生で、下男にすぎませんよ。その他のことは知りませんね。え? 愛人? 先生の愛人ならアケミさんでしょう。え? 安川久子さんと先生との関係ですか。そんなこと知るもんですか。僕には、神田先生の私生活は興味がなかったです」
「ピストルの音を知らなかったのかい?」
「知ってりゃ何とかしますよ。書生の勤務に於ては忠実な方ですからね」
「自殺の原因に心当りは?」
「ありませんね。そもそも文士には自殺的文士と自殺的でない文士と二種類あって、自殺的でない文士というものは人間の中で一番自殺に縁がない人間ですよ」
「殺される原因の心当りは?」
「僕が先生を殺す原因なら心当りがありませんよ。他人のことは知りませんね」
「君とアケミさんの関係は?」
 こう突ッこんだ新聞記者の顔をフシギそうに眺めて、彼は呟いた。
「もしも僕たちが良い仲なら、先生の生存が何より必要さ。なぜなら、僕たちが同じ屋根の下に暮せるのは先生のおかげだからさ。僕のように生活力のない人
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