ガチャ/\やってみて、切れてるのが分るまでの時間だけです」
「そのときピストルの音をききませんでしたか」
「気がつきませんでした。ラジオが鳴っていましたので、きこえなかったのかも知れません」
「ラジオのスイッチを入れたのはあなたですか」
「いいえ。私が来たときから鳴っていました」
 そのラジオは神田自身がスイッチをひねったのである。唐手の立廻りの練習をはじめる時にひねったものだそうである。
 アケミも文作も彼らが立去る時にラジオの鳴っていたのをきいていた。アケミはよほどラジオをとめて出ようかと思ったが「彼らの便宜のために」わざとラジオの音を残して立去ったのだと云った。
「寛大なもんですな」
 と新聞記者が感服したら、
「私までコッパズカシイからよ」
 と意味深長に微笑した由、さる新聞の報ずるところであった。
 木曾はこう証言した。
「僕が邸へ戻ったのは、十二時五分ごろじゃないかな。なぜなら、神社の前に自転車をとめて、これから丘を登るために一休みしてるとき正午のサイレンをきいたからです。電話ですか、電話は知りませんでしたね。なんしろ荷物を台所へほうりこむ。いきなりマキ割りをはじめたもので
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