カヤも買え」
「カヤはいらん。今に穴ボコの中で暮すようになるのだ。穴の中にカヤはつられん」
「つれる。つれる穴をつくってやる。鍋と釜を買え」
「私が持っとる」
「小さい」
「小さくない。四人で充分にくえる」
「くえん」
「お前バカだな。あの釜は一升たける」
「三升たかねばならん」
「お前、一食に一升くえるか」
「オレは一日に五へん食う」
 亮作は二の句がつげない。金時は彼をあわれむようにジッと見つめていたが、さとすように言った。
「みんな買っておけ。今が安いぞ。オレが安く買ってきてやる。持ってる金、みんな、だせ」
「どうするのだ」
「金のあるだけ品物を買う」
「バカだな。一文なしで、くらせるか」
「心配するな。オレにまかしておけ」
「電燈屋がきたら、どうする」
「畑の物を売って払ってやる。お前は心配するな」
「そうか。本当に大丈夫か」
「大丈夫だ」
「そんなに買いこんで、戦争のとき、持って逃げられるか」
「オレにまかしておけ」
 亮作は金時の言葉にたのもしいものを読みとったので、包みをといて、虎の子をだした。二千余円残っている。
 そろって、買物にでた。
 金時はまず大八車を買った。そ
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