ったので、田畑づきの別荘番としては、これ以上の適任者は見当らない。
亮作は耕作の知識がなかったので、つづいて金時に居てもらうことにしたが、二町歩の耕地の実りは大きいから、敵が上陸してくるまでは、金時の働きで左ウチワの生活ができるのである。
たった一日でフシギな変動であった。鶏小屋住いの無一物の亮作は、今はしかるべき富豪になっていた。それは敵の上陸をめぐって計算された取引であったが、敵が上陸してくるまでは彼が別荘の主人であるのはマギレもない事実であった。
亮作は満足であった。そして自分の物となった座敷へあがってボンヤリしていた。戦争中の人間は自由の時間にボンヤリするのが例であったが、亮作はもっとボンヤリした。
金時が部屋へきて、彼のうしろに立った。
「フトン買ってくれ」
「フトン?」
「カヤもいる」
「お前、もたないのか」
「お前も、もたないだろう」
亮作の胸にほろ苦いものがこみあげる。やっぱり無一物なのだ。彼は憤りを覚えた。
「私の毛布、一枚わけてやる。それで、たくさんだ」
「冬にこまる。いま、買っておけ」
「フトン背負って、戦場を逃げて廻れるものか」
「オレが背負ってやる。
前へ
次へ
全64ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング