せん。有り過ぎて困る物ではありませんから、持ってこうかと思ったのですが、こちらに何もなくては、せっかく田畑があっても耕作にさしつかえますから、お譲りしようと思ったのです。高いと仰有れば、重いけれども持ってきましょう」
「それは畑に附属したものです」
「それじゃア家具は家に附属したものですか」
「いえ、それは屋外で使う品物だから」
「アハハ」
「いえ、買いますよ」
 渋々包みから百円札をだした。
 野口一家は去ってしまった。
 野口がこの別荘をつくった時から、女中部屋に風変りな留守番が住んでいた。このへんの人は「金時」とよんでいたが、まだ二十四の女であった。顔もからだもまるまるふとって、怪力があった。
 金時は田畑を耕すことは知っていたが、料理はできなかった。金時に料理をつくらせると、鍋に熱湯をたぎらせて調味料をぶちこみ、飯でも野菜でもなんでもかまわず投げこんで、シャモジでかきまわすだけである。ほかの食物をつくらなかった。
 しかし野良では男の何人分も働いて、二町歩の田畑を楽々たがやした。鍋をかきまわすことよりも、肥ダメをかきまわすことを好んだ。
 金時のもとへ忍んでくる物好きな男もなか
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