うよりも、拾い漁ってと云う方が正しいような話でしたな。買い漁る必要はないのです。別荘をすてて逃げているのですから。引越しの運賃になれば、よろこんで売るそうです」
みんな知っているな、と野口は相手を憎んだが、主眼は、どこまでも商売だ。一銭でも高く売りつければ、すむことだ。
「あなたは、まだ誤解してらッしゃるようですな。売り別荘はタダが当然ですとも。しかし私のは、別荘の価値じゃなくて、田畑と源泉の値段です」
「それでしたら、千円ですな。もう、ちょッと安いかも知れない」
「この田畑と源泉が、たった千円ですか!」
「ええ、千円です」
「何から割りだしたお値段ですか。ひとつ、後学のために、きかせて下さい」
「敵の上陸を二ヵ月後として、別荘二ヵ月間のお家賃六十円。それも、四五日後に敵が上陸すれば、丸損ですな。二ヵ月後から十数年間は不毛の沙漠となりますから、土地も源泉も値のつけようがありません。値のつくものは、三十羽ほどの鶏と、いま畑にできている野菜だけです。これを高く見積って、全部でせいぜい千円です。食べきらぬうちに敵が上陸すれば、これも丸損になります。そこを半々にみて、五百円がいい値でしょうな
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